─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
現代の教育に生かしていく
海城中学高等学校は今年で創立135周年を迎えました。その長い歩みのなかでも揺らぐことなく受け継いできたものがあります。それは創立者・古賀喜三郎が掲げた「国家・社会に有為な人材」と「新しい紳士」の育成という建学の理念と精神です。
もちろん、社会は創立当時とは大きく変化しています。「国家・社会に有為な人材」は時代や社会が変われば、そこで求められる人材像も変わるでしょう。しかし大切なのは、その精神を現代に即して捉え直し、教育の中でいかに生かしていくかということです。
もう一つの柱である「新しい紳士」も同じです。私たちが「新しい紳士」という言葉に託しているのは単なる礼儀作法ではありません。他者を尊重し、自ら考え、自らの力を社会のために生かすことのできる人間を育てることです。その精神を今の時代にどう受け継いでいくのかを私たちは問い続けています。
創立以来受け継がれてきた「不易」の理念を土台にしながら、未来を生きる子どもたちに必要な教育を考え続けること。それが海城という学校の変わらない姿勢です。
テーマは「表現する学校」
校長に就任して4年目を迎えましたが、海城の教育を支えている財産は何かと問われれば、私は迷わず「人」と答えます。まずは生徒たちです。海城には目の前の学びに真摯に向き合う生徒が集まっています。授業はもちろん、大学受験に直接結びつくわけではない探究活動にも熱心に取り組みます。目先の成果だけを求めるのではなく、「学ぶことそのもの」に価値を見いだす生徒が多いことは海城の大きな特色だと感じています。
毎週土曜日の朝は生徒の登校を大迫校長が迎えます
私は毎週土曜日の朝には必ず校門に立ち、生徒一人ひとりと挨拶を交わしています。その何気ない生徒との会話や表情の変化を通じても、何事にも一生懸命取り組む海城生らしさを実感しています。
そしてもう一つの財産は教職員です。各教科の専門性を磨き続けることはもちろん、12歳から18歳までという人間形成の大切な時期に寄り添う中等教育の専門家として、それぞれの教員が自らの持ち味を生かしながら生徒一人ひとりと向き合っています。
校長就任以来、私が教職員に伝え続けてきたことはとてもシンプルです。「生徒のためになると思うことは思い切ってやってください。何かあれば最後は私が責任を取ります」。この言葉を伝え続けたことで、教員が安心して挑戦できる雰囲気が学校全体に広がってきています。
海城にはこの生徒と教員が互いを高め合う好循環があります。生徒が真剣に授業を受けるから教員はさらに良い授業をしようと教材研究を重ねる。そして、その授業に生徒がさらに応えていく。この循環こそが海城の教育力を支えているのだと思います。
そして今年、学校全体のテーマとして掲げた言葉が「表現する学校」です。一人ひとりが自らの思いや個性を伸びやかに表し、それぞれの方法で新たなことに挑戦する。そうした文化を学校全体にさらに根付かせていきたいと考えています。
私自身が詩人として活動してきたことから「言葉」や「表現」には特別な思いがあります。そのため、始業式や終業式では毎回、生徒たちのために書き下ろした詩を朗読しています。詩を読み始めると生徒たちは静かに耳を傾け、読み終えた後には大きな拍手を送ってくれます。言葉を介して思いを伝え、それを受け止める。そうした時間もまた海城に根付きつつある一つの表現の文化だと感じています。
校長室に置かれたグランドピアノ。生徒が素敵な演奏を披露してくれます。
また校長室では「校長室ピアノ」と名付けた取り組みも行っています。ある中1生が校長室を訪れ、私の前でショパンの『幻想即興曲』を見事に演奏してくれました。聞けば小学生の頃にこの取り組みを知り、「いつか海城でピアノを弾きたい」と憧れて入学したのだそうです。一人の表現が誰かの心を動かし、やがて新たな表現へとつながっていく。その連鎖が生まれることも「表現する学校」の一つの姿だと思っています。
学力を伸ばすことはもちろん大切ですが、それとともに一人ひとりが自分らしさを発揮し、お互いの表現を認め合える学校を目指しています。その思いを「表現する学校」という言葉に込めています。
社会へ羽ばたいてほしい
私はこれまで国際バカロレア(IB)教育の普及や制度づくりに携わり、日本全国の学校を見てきました。その経験があるからこそ海城の教科教育の完成度の高さには着任当初から強い感銘を受けました。各教科では教員が長年培ってきた教材や授業が体系化され、高いレベルの教育が実践されています。その基盤を私が変える必要はないと考えました。
一方で、私だからこそ加えられるものもあると思っています。それが知性と文化や芸術、教養といった人間性を統合した「海城知」と呼ばれる力です。豊かな感受性、他者を思いやる心、困っている人に手を差し伸べる行動力、多様な価値観を受け入れる寛容さ、そして民主主義や平和を尊ぶ姿勢。学力という尺度だけでは測ることのできない能力を育んでいきます。
そして海城での学びは大学受験や進学をもって完結するものではありません。卒業後も生涯にわたって学び続け、得た知識や経験を社会へと還元していくものです。そうした「サステナブルラーニング(持続可能な学び)」の姿勢を育むことも本校の大切な役割です。
受験勉強に励んでいる小学生の皆さんには、ぜひ勉強を「点数を取るためだけのもの」にせず、学ぶことを楽しみ、自分の知的好奇心を大切にしてほしいと願います。その積み重ねが自分らしく社会で活躍できる人間へとつながっていくはずです。
創立以来受け継いできた「不易」の理念を礎としながら、時代に応じて教育のあり方を問い直していく。そのなかで生徒一人ひとりが自らの個性を表現し、他者の表現にも心を開きながら人間としての幅を広げていく。そんな学びの場であり続けることが、これからの海城にとって大切なのだと考えています。
校長 大迫 弘和 先生
- 市川中学校・高等学校
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