理屈を超えて一生の宝物になる
Googleのデータサイエンティストが音楽配信サービスのデータを分析した興味深い報告があります。それによると、人が一生でいちばんよく聴く曲は、男性なら13歳から16歳、女性なら11歳から14歳の間に流行した曲だそうです。私自身も中学3年生の時に出会ったローリング・ストーンズを今でも聴き続けていますし、当時の仲間とは、30年以上が経過した今でも、往年のバンドのドキュメンタリー映画を一緒に見に行ったり、ライブに出かけたりする関係が続いています。
こうした「思春期の記憶の強さ」は、現代のエンターテインメントビジネスにおいても戦略的に活用されています。かつて人気があったバンドの著作権は、音楽デジタル配信による収益が可視化されて安定した投資対象となり、彼らを題材にした映画が次々と製作されるようになりました。
なぜこの時期の記憶がこれほど強く残るのか、明確な理由は分かりませんが、思春期に耳にしたものや触れたものは、間違いなく「一生の財産」になります。その時に出会った先生、先輩、そして同級生たちは、こうした一生の記憶を共有する「一生の仲間」となります。普段は連絡を取り合っていなかったとしても、再会した瞬間に「あの時、一緒に頑張っていたあいつだ」と通じ合える感覚は、何物にも代えがたい宝物です。中学受験という大きな壁を乗り越えた先には、そうした一生の宝物となる出会いが待っているのです。
本質を理解する力と対応力
昨今、ビジネスの現場でも「アナログな実体験」の重要性が再認識されています。あるメーカーがサイバー攻撃を受けてシステムが停止した際、業務を支えたのは「ファックス」というアナログに近い手段でした。実はファックスは通信が非常に安定しており、大学入試会場などでも、トラブルが起きた際の確実な通信手段として、今なお重宝されています。
この一件で関心を持ったのは、自動化されたシステムに慣れきっていた若手社員が仕事の流れを把握できず混乱した一方で、かつて手作業で業務を行っていたベテラン社員はプロセスの全体像を理解していたため、アナログな環境下で即座に対応して大活躍したという点です。私自身が1997年に入社した当時も、まずは「伝票を正しく切ること」を叩き込まれました。それは一見非効率な作業に思えますが、物、書類、お金がどのように動くかという仕事の全体像を体で覚えるために必要なプロセスでした。
手作業でアナログという非効率に思える経験をすることは、中高時代の学びにも通じるものがあります。デジタル化が進むと、プロセスを飛ばして「答え」だけがすぐに手に入りますが、それではシステムが止まった際に何もできなくなってしまいます。中高時代に「アンプラグド」な環境で、人と人との生身の触れ合いを通じた失敗や試行錯誤を経験しておくことは、物事の本質を理解したり、予期せぬ出来事が起こった際に対応する能力を養ったりする土台となるのです。
夏休みが明け、受験生の皆さんは模試の結果に一喜一憂する時期を迎えます。しかし、偏差値は相対的な評価であるため、周囲も必死に頑張っているこの時期には、努力がすぐには数字に表れないこともあります。保護者の方には、偏差値の上下だけでなく、「この夏を頑張り抜いたこと」そのものを、まずは評価してあげてほしいと思います。その努力が実り、一生の宝物となるような学校生活を手に入れることを心より願っています。
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