
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
慈しみをもって生徒と向き合う

本校は、1958年にキリスト教教育修士会を母体とする学校法人聖マリア学園によって設立されました。創立以来、“Be Gentlemen(紳士たれ)”をモットーに、カトリックの教えに根差した男子教育を行っています。私は校長に就任して23年目になりますが、いつの時代も生徒に願っているのは、「ぬくもりを伝える人であれ」ということです。かつて、マザー・テレサは、炊き出しを行うシスターたちに、「相手の目を見てほほ笑むこと」「手に触れてぬくもりを伝えること」「短い言葉がけをすること」の三つを伝えたそうです。困っている人に、パンとスープボウルを手早く正確に配るだけなら、ロボットのほうが適任かもしれません。しかし、相手の目を見て、手に触れ、優しい言葉をかけることができるのは人間だけです。私はこのエピソードに深い感銘を受け、生徒にはことあるごとに「他者に対してぬくもりを伝えることができる人間になってほしい」と話しています。
こうしたぬくもりや慈悲深さは、もともと本校の根底に流れているものでもあります。たとえば、成績が振るわない生徒がいても、それを理由に落第させることはありません。何度裏切られても人間を愛したイエス・キリストのように、生徒の可能性を信じ、慈しみを持って向き合うことが学校の使命だと考えているからです。
生徒の人生に“点”を打つこと

これから訪れるAI時代に、中等教育に期待されている役割とは何か。わたしは、「いかにマイストーリーを持って語れる人間に育てるか」だと考えています。残念ながら、情報量や論理力では、人間がAIに勝てる見込みはありません。それならば、人間は、AIには介入できない「調整力」や「交渉力」といったコミュニケーション面で優位性を発揮するべきではないでしょうか。相手の心を動かすための、共感を伴うコミュニケーションにおいて重要になるのが、その人の人生経験に裏付けられた「マイストーリー」です。世の中、正しさだけでは人の心を動かすことはできませんが、「その人だから語れる何か」を持っていることは、交渉や説得の場において、大きな武器になるものです。
アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズの有名なスピーチに、「Connecting the Dots(点と点をつなぐ)」というものがあります。一見バラバラに見える“点(経験)”も、後になって振り返ると、それらは一つの線となって現在の自分につながっている、という内容です。「マイストーリー」を形成するのは、まさにこの“点”の一つひとつです。これからの時代を生きる子どもたちが中高時代にやるべきことは、人生にできるだけ多くの“点”を打つことではないでしょうか。一見、無駄に思えるようなことでも、たくさんの選択肢を設け、“点”を打つ機会を提供すること。これこそが、中等教育の重要な役割ではないかと考えています。
近隣女子校との交流にも注力

そこで、本校では、生徒の“点”になるものとして、さまざまなプログラムを設けています。たとえば「聖光塾」では、教員の専門性を生かした教養講座や、企業や研究の最前線を知るための外部講師によるセミナーなどを不定期で開催。どの講座にも学年の制限は設けず、誰でも自由に参加できるようにしています。
聖光塾と同じく、学年の制限を設けない希望制の通年講座として「情報プログラミング講座」も開講しています。このプログラムには、大学数学で学ぶような「偏微分」の要素も含まれるのですが、受講者のうち中1の生徒2人が、それを見事に解き切ったのには驚きました。このように、「もっと知りたい」という気持ちは、学びの原動力になるものなので、意欲のある子どもたちにきちんと応えられるような発展的な学びを、今後もたくさん用意したいと思っています。
近年、生徒たちの海外志向の高まりを受け、中3・高1を対象とした希望制の海外研修を充実させています。行き先は、アメリカのメリーランド州とカリフォルニア州、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアなど。これら先進国以外にも、タイの「YMCAパヤオセンター」に訪れるプログラムがあります。パヤオセンターとは、タイ北部山岳少数民族の子どもたちの人身取引予防と教育支援活動を行う施設のこと。生徒たちは蚊帳を張ったベッドで寝泊まりをし、現地の方がその場でさばいてくれた鶏を食べ、ボランティア活動に従事し、少数民族問題の根深さや環境・文化の違いを、身をもって学んでいます。
このようなタフな海外研修が実施できることや、ふだんの生活から異性の目を気にせず自由に行動・発言できることは男子校の良さでもありますが、これからの社会で活躍するためには、異性の持っている価値観や、考え方の違いを知っておくことも必要だと考えています。そのため、最近は、洗足学園をイングリッシュキャンプに招いたり、グリークラブが横浜女学院との共催でコンサートを開いたり、横浜雙葉と図書委員会の交流を図ったりと、近隣女子校とのつながりも重視しています。正課の授業では男子校の良さを残しつつ、課外授業や放課後の活動では、女子生徒と協働することによって、たくさんの気づきを得てほしいと思っています。
学校説明会などで、よく「どのような小学生を求めていますか」と聞かれますが、本校を気に入ってくれた受験生であれば、どなたでも歓迎します。12才の子どもたちは、“どのような”という言葉では言い表せないくらい、たくさんの可能性を秘めています。さまざまな授業や学校行事を通して、生徒一人ひとりの適性を見いだし、それを最大限に伸ばせるような教育環境を提供したいと思っていますので、積極的なチャレンジをお待ちしています。

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